フェーズフリーデザインが提供する価値
日用品は日常時に、防災用品は非常時に利用できるものである一方で、フェーズフリーの商品やサービスは、日常時も非常時もフェーズを越えて活用することができる。
上の図を見ていただこう。縦軸がQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の高さを示し、横軸は時間の経過を表している。
ブルーのラインが表す一般的な商品やサービスは、災害発生時、つまり日常時から非常時へとフェーズが移った途端に、提供するQOLが著しく下がり、やがて日常へと戻るにつれて徐々に上昇していく。
防災用品や防災のサービスを表すのは、グレーのライン。大きな特徴は、災害が発生すると使用され、低下したQOLを高めていく機能を有するが、日常時においてはほとんど活用されることがないため提供するQOLが低いということ。
そしてフェーズフリーの商品やサービスを表すのが、レッドのラインである。日常時や非常時といったフェーズにかかわらず、QOLを高く維持することができる点が大きな特長である。これは、次に紹介する「フェーズフリー5原則」を軸とした、フェーズフリーデザインによって実現される。
フェーズフリー5原則
フェーズフリーは目指すべき状態の概念であり、それを実現するための商品やサービスを構築するのが、フェーズフリーデザインである。このフェーズフリーデザインは、5つの原則が基になっている。
1つ目は、日常時だけでなく、非常時にも快適に活用することができる「常活性」。2つ目は、日常の暮らしの中で、その商品やサービスを心地よく活用することができる「日常性」。3つ目は、使用方法や消耗・交換時期などが分かりやすく、誰にも使いやすく利用しやすい「直感性」。4つ目は、フェーズフリーな商品やサービスを通して、多くの人に安全や安心に関する意識を提起する「触発性」。そして5つ目は、安心で快適な社会をつくるために、誰でも気軽に活用・参加できる「普及性」である。
01 -
常活性
日常時はもちろん、非常時など、どのような状況においても快適に活用することができること。日常時の価値をそのまま発揮する場合もあれば、日常時とは異なる非常時ならではの価値を発揮する場合もある。
電力とガソリンを燃料とするPHV車は、ガソリンのみを使用とする一般車と比較して、日常時には低燃費で長距離を走行することができ省エネ。非常時には一般車は不可能な、電源の供給源となる。
02 -
日常性
ふだんの暮らしの中で、その商品やサービスを心地よく、快適に活用することができること。生活の質を向上させる役割を持つもの。
強粘着で剥がれにくいため、日常時に便利に使えることはもちろん、非常時には屋外や水まわりなどで緊急の情報を伝達することができる。
03 -
直感性
操作方法や使い方、また消耗・交換時期などが老若男女に分かりやすいこと。誰にも使いやすくて利用しやすいもの。
紙コップは飲料用に使用されることがほとんどだが、デザインに目盛りが施されていることで、赤ちゃんの粉ミルクの量や、避難所での炊き出しの際に計量カップとして活用することもできる。
04 -
触発性
フェーズフリーな商品・サービスを通して、さまざまな気づきをもたらすこと。多くの人に安全や安心に関する意識を提起するもの。
タイムリーな情報を瞬時に共有。道路の状況や天候の悪化などを知ることができるだけでなく、運転をしているドライバーも、その情報供給に関わることができる。
05 -
普及性
安心で快適な社会をつくるために、誰でも気軽に参加・活用ができること。広く普及していきやすいもの。
基本機能はごみ焼却場でも、ふだんから地元の人たちに解放して交流の機会を増やしておくことや、施設として日常時も非常時も活用できる工夫を取り入れることで、常に人々の暮らしの拠点として開かれた場に。
フェーズフリーデザインのアプローチ
フェーズフリーデザインを考える際には、大きく2つのアプローチがある。
1つ目は、日常時から見たアプローチ。ふだん活用する日用品を、デザインや工夫によって非常時にも役に立つようにするアプローチである。日常時のための商品やサービスが、非常時にもそのままの価値を発揮する、または別の価値を発揮して、QOL(生活の質)を維持したり向上させたりすることが、フェーズフリーの商品やサービスにつながる。
2つ目は、非常時から見たアプローチ。非常時のみにしか活用できない防災用品などを、デザインや工夫によって日常時にも役に立つようにするアプローチである。非常時のための商品やサービスが、日常時にも役立てられ、QOLの維持や向上に貢献すること。それらが、フェーズフリーの商品やサービスとなる。
また非常時に限らず日常時のささいな出来事も含めて、被害のレベルはさまざま存在することも視野に入れておかなくてはならない。傘を忘れて雨に濡れる程度の出来事から、生存者がいないほどの大惨事まで、被害の規模には大きな違いがある。
これらのアプローチによって、幅広いフェーズフリーデザインを考えることができる。
被害のレベル
フェーズフリーのカテゴリ
フェーズフリーの商品やサービスを具現化するため、その方法は4つのカテゴリに分類することができる。フェーズフリーデザインを考える際には、こちらも考慮しておく必要がある。
ヘルメット
A - 防災及び特定の職業・趣味などで日常的に利用している
防災用品や専門性の高い道具など、特定の状況でしか使われていない商品が日常時にも利用できる。
ペットボトル ウォーター
B - 利用方法の提案によりフェーズフリーの価値を提供
すでに存在する日常時に役立つモノやサービスに、非常時での利用方法を提案することでフェーズフリーの価値が提供できる。
水に強いペン
C - 日常時も非常時も同じフェーズフリーの価値を提供
基本的な用途や機能は変わらないが、日常時も非常時も同じフェーズフリーの価値を提供し続ける。
PHV車
D - 日常時とは別に災害時に役立つフェーズフリーの価値を発揮
本来持つ基本機能が、非常時に別の用途・機能でフェーズフリーの価値を発揮する。
フェーズフリーデザインのための視点
フェーズフリーな社会の実現に向けて、個人や企業がフェーズフリー商品やフェーズフリーサービスを開発するには、新たな手法やデザインプロセスの検討が必要となる。
フェーズフリーデザインのための視点として、「why:プロブレム」「where:ロケーション」「who:ターゲット」「when:タイミング」を意識することが有効といえる。
why - プロブレム
where - ロケーション
who - ターゲット
when - タイミング
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